要するに、中国が何時まで「世界の工場」でいられるかって言うことです。
最近、沿海部の大企業の工場では、賃上げ・待遇改善を求めて激しい労働争議が行われてきました。
発端は、広東省深圳市にある富士康科技集団(フォックスコン)での連続飛び降り自殺事件です。
一つの企業の内部で、短期間の内に十名以上が自らの命を絶つのは異常でしょう。
労働環境が苛酷すぎるのは、単純に考えても想像の付くことです。
このような現状は、労働者の意識を目覚めさせました。
一度覚醒が始まれば、矛が鞘に納まるまでは、かなり時間を要します。
今時の闘争道具なら、携帯電話、PCが挙げられますね。
労働者がちょっとお金をためれば、簡単に手に入るのです。
そんな、情報戦のツールを使えば、労働者のネットワークは簡単にできてしまう。
ショートメッセージ、メール、掲示板、コメント、何でもござれです。
目に見えない知の連鎖反応、組織活動が始まったのは言うまでも無い。
しかも、この火種は、中国に進出した日系企業へも大きく飛び火しました。
中でも耳目を集めることになったのは、広州ホンダとその関連企業です。
きっかけは、去る五月中旬、ホンダの部品(変速機)工場で始まりました。
待遇改善を求めた闘争は、フォックスコンと同じです。
ただ、操業停止がかなり長期化しました。
本体の自動車生産を停滞させましたから、経営のダメージは大きかったでしょう。
この後、色々な日系企業で労働争議が勃発した中で、不思議なこともありました。
国営企業には、不思議なほど争議が伝染しなかたのです。
もちろん、予防的な措置がとられて事前に押さえ込まれたのかもしれません。
まあ、経営状態の悪い国営企業のことです。
従業員の方も、とばっちりで解雇されるとも限られません。
お互い、賃上げをしたくてもできなかったと言うことでしょう。
ただ、賃金の急速な上昇は、これから一二年内で加速化するはずです。
生産コストも、ぐんぐん、駆け上がることでしょう。
農村から出稼ぎで来る労働者(民工)も不足ぎみで、この現象にもっと拍車を掛けるのではないでしょうか。
考えてみてください。
出稼ぎ生活はつらいことでしょう。
工場の寄宿舎の寮費や食事代を徴収されて、残りは切り詰めて実家へ仕送りする。
使えるお金は、タバコ代かおやつ代ぐらいでわずかなもんです。
一方、近年は内陸部の地方経済が急発展中です。
遠出しなくとも、仕事が簡単に見つかるようになって来ました。
ちょっとぐらい労賃が安くたって、自分の家から働きに行けるのに越したことはありません。
つまり、賃金を引き上げても、簡単に労働者をかき集めることができない時代になったのです。
中国沿海部の工業地帯は、それだけコストが高騰した現実に直面しています。
そして、ルイス転換点と言うのは以上のような状況を指すのです。
冒頭でもお話しましたが、コストが増えれば、国際競争力が損なわれるのは事実です。
中国が、世界の工場でいつまで居続けられるのでしょうか。
と言うわけで、中国について、未だにバラ色の世界を描こうとする日本人が多いので困りものです。
これとは別に、タイでものづくりにこだわり続ける有名日本企業を見つけてしまいました。
ミネベアの社長、貝沼由久さんが日経新聞の取材で次のようにおっしゃっていました。
現在は、中国の労賃はタイより割安だが、一二年内でタイに追いつく。
タイの主力工場に五百億円を掛けて増強する。
要するに、タイへ直接投資する魅力が底堅いものであることを、改めて認識した道産子社長なのでした。
(この巻き、終わり)
おまけ:
ルイス転換点を簡単に再説しますと、加工輸出産業を維持していくためには、低賃金の農村労働力が継続的に供給されることが必要で、それができなくなって限界点に達すると、生産コストが上昇し始め、輸出競争力も落ちて行くと言うことです。
この転換点につぃて、中国も既に入ったと言う論説が、最近、マスコミでも取り上げられています。
2 件のコメント:
真面目に経済学考えていて思ったことは、中国の効率賃金(労働意欲を損なわない最低限の実質賃金率)ってどのくらいなんだろうかなぁ…?ってことです。 かなりゼロに近いと思います。 その中で、沿岸部都会が飽和状態で内陸部で完全雇用状態(志願浮浪者以外はずべて雇用されている状態)になるまで雇用増加が続くと、中国だけならず、アジア諸国および世界全土に相当影響を及ぼすでしょうね。
おそらく、世界が中国に対抗するには、「質」しかないでしょう! 東南アジアは、効率賃金率では中国に及ばないでしょうが、完全雇用状態に近づいて中国労働市場の需要が飽和状態になり、賃金率がタイと並べば、質で勝るタイを含む東南アジアが優勢になるでしょう。
Olige347さんへ、
効率賃金と言う観点を教えてくださって有難うございます。
中国の場合、共産党の一党独裁で、民主集中制とか言う体の良い響きですが、これは労働市場を強固に統制して、賃金を低く抑え、輸出競争力を高めながら世界の工場たらしめんとした国策があったと思えるのです。
となれば、仰るとおり、効率賃金は限りなく今まではゼロでした。これは、賃金=<限界生産力と言う、非常に効率的な図式です。
でも、労働者も馬鹿じゃない。
インターネットを使って、世界中の情報を手にしながら、自分たちの賃金が適性であるかを判断して、必要に応じて賃上げ闘争を繰返すようになると見ています。
ただ、それでも中国の労賃は安いかもしれませんね。そうであれば、後は品質とアフターサービスで勝負です。
ラオスでは、一時期、手ごろな中国製バイクが売れました。でも、耐久性が日本製より劣るのと、中古品になったとき値がつかないため、人気を失い、もう一度日本製に人気が集まっています。
当社の製品もタイ国内では中国製より高いのですが、メンテナンスサービスを重視してきた結果、お客様を獲得し続けています。
商品は値段だけじゃないのです。売り逃げするような商法は、直に行き詰るものです。
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