2009年12月26日土曜日

青空文庫は時空を越える図書館の巻き

海外に住んでみて、青空文庫のありがたみを改めて感じた。


この文庫は、インターネット上に開設された電子図書館だ。
公開された作品は、一部を除いて著作権の消失した文学がほとんどである。
だから、誰もが自由に無料で作品を読めるようになっている。

小説家のような物書きは、書いて何ぼの原稿料と印税を稼ぎとする商売だ。ただし、亡くなってから半世紀を過ぎてしまえば、著作権は消えてしまう。そうなれば、作品の使用料となる印税は、払う必要も無くなる。

青空文庫は、そこに目を付けた。

著作権が無くなれば、作品は社会の公有財産として残される。
それを尊重して扱う限り、入手・閲覧は制約を受けない。
図書館に眠るだけの貴重な蔵書も、ネットを通じて簡単に公開できるのだ。

こうして、今を遡ること十年以上も前に、文学作品のデータベースとして一般公開が始まったのである。

これは、革命的と言ってよい。
ネットの通信環境さえあれば、自由に作品を鑑賞できるようになったのだ。日本語が分かるのなら、誰であろうと世界中のどこであろうと何時であろうと、OKなのである。

そして、このありがたみを海外に住んで初めて分かったような気がした。今や、日本人は国境を越え百二十万の人が海外へ雄飛している。

右を向いても左を向いても、日本人は自分だけと言う土地も必ずあるだろう。日本語の本を読みたいと思い付いても、手に入れる当てなど無いかもしれない。そんな土地柄で、もし電話回線が確保できて、ネットが何とかつながるのであれば、この電子図書館は大いに活用できるのだ。

そんなことを思いながら、本当に久しぶりに青空文庫をのぞいて見た。

作品数も八千五百までに達していると言うから、凄い。
興味があったので、11月のアクセスランキングをちょっとのぞいて見た。

1位: こころ(夏目 漱石)
2位: 桜の森の満開の下(坂口 安吾)
3位: 走れメロス(太宰 治)
4位: 人間失格(太宰 治)
5位: 坊っちゃん(夏目 漱石)
6位: 吾輩は猫である(夏目 漱石)
7位: ヴィヨンの妻(太宰 治)
8位: 銀河鉄道の夜(宮沢 賢治)
9位: ドグラ・マグラ(夢野 久作)
10位: 〔雨ニモマケズ〕 (宮沢 賢治)

定番と言っていい名作がランクインしている。
自分が中高生の頃に、読んだ作品が多い。
それに、坂口安吾は未だ読んだことがないから、今度読んでみよう。ただ、夢野久作は自分の趣味に無い作家だ。個人的な意見だと断っておくが、小説の着想は面白くても文章が感心しない。

読んで文章の造形力に圧倒されるのは、芥川龍之介、中島敦、太宰治だろう。
彼らも、ランク五百位までの常連のようだ。
それに中国の作家、魯迅もランクに入っている。
亜Q正伝、故郷、狂人日記、みな若かりし頃に読んだ作品だ。

いや、懐かしい。

そして、こんな作品まで収録されていたのを発見して喜んでしまった。
”ごん狐”で有名な童話作家の新見南吉。
被爆体験が作品に昇華した”夏の花”の原民喜。
型破りな視点の哲学書”「いき」の構造”の九鬼周造。
荒削りだが繊細な感性の残る、若くして夭折したアイヌの歌人、違星北斗。

知っている人は、知っているかもしれない。
知らないでいても、日々の生活に事欠くようなものでも無い。
いや、海外に住んでいるからこそ、読むべきだと思うのだ。
今改めて、日本と日本人とは何だろうと、異国で考え直したり見つめ直す。ちょっと高尚だが、青空文庫を通じてそんな作業をできるのではないかと思ったのである。

と言うわけで、夜更かししてまで本を読み漁り、できれば小説家になりたかった若き自分を思い返しました。途方も無い夢ではあったのですが、今こうしてブログを書いてコメントも折に触れていたいだいて、それはそれで望みをかなえたのかもしれないと思う貧乏社長なのでした。
(この巻き、終り)

おまけ:
トラーリさん、あなたのブログ記事を読んで、ネタを書いてみたくなりました。どうも、ありがとうございます。

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