女性の象使いさんに初めて出会った。
このキティ・ラフト・ツアーでは、象乗り体験が組まれていた。
午後一番の予定なので、先ず腹ごしらえに昼ごはんを食べる。
その後、バスに乗ってクウェー・ノーイ川に掛かる橋をすぐに渡り、程なくして象キャンプに到着してしまった。距離にすれば、五キロもしないほどの近場のようだ。
客を出迎える施設は、ささやかながら存在はしていた。
ただ、バンコク近郊のローズガーデンとかチェンマイのメーサーキャンプのような充実した施設には及びもしない。多分、宿泊設備の経営者が付属にこさえた小規模な施設のように見える。
それで、添乗の女性ガイドに早く乗れとせきたてられたのだが、これがひどい。
私は喋れるのよと自慢げなのかも知れないが、命令口調で言いたい放題の乱暴な言い回しに呆れる。きっと、そこら辺の不良外人のボーイフレンドから体で教わったいい加減な英語なのだろう。
そんな不愉快はさておき、いの一番にわれわれ凸凹夫婦が乗ることになった。
ちょっとこぶりの象に見える。
まだ十分に大人になりきっていない象かもしれない。
しかも、まだ二十歳前後と思しき女性が操っているのだ。
本当に、大丈夫かなーと心配になった。
案の定、われわれを乗せても動こうとしない。
すぐ始めのちょっとした坂をぐずぐずして上ろうとしないのだ。
その内に、二番手の大きな象が横に並んできた。
ちょっとの間、この小さな象をなだめるかのように鼻で体をさすったりしていた。
この象さん、意を決したかのようにぐいぐい坂を上がりだす。
この後は、畑とは思えない粗放な開墾地を通り抜けて行った。
ゆっくり、のっしのっしと、踏み跡程度の獣道をなぞって歩く。
象の足踏みにあわせながら、体が左右にゆれ上下する。
さわやかな暑い日差しを受けながら、これも心地よい。
上さんが、手習いのタイ語でこの象使いさんに尋ねてみる。
すると、この象さんは未だ七歳程度のようだ。
この女性が、生まれてからずっと面倒を見ているらしい。
となると、彼女が二十歳とすると十三歳の時からになる。
随分と幼い時から、家族の一員として一緒に暮らしてきたのだろう。
しかも、メス象のように見えたから、女同士のコンビな分けだ。
でも、七歳とは随分に若い。
自分が見聞きした限り、象は、生まれてから大人の像として象使いと一緒に働き始めるまで、十年以上掛かると思っていた。昔なら、山深い山林に分け入り、木材の伐採・運搬をする重労働だから、象さんも大人の体が必要だったはずだ。
でも、こんな話はすでに昔のことだ。
二十年前、タイ政府は主なチーク材の伐採活動を禁止している。
つまり、象さんたちは働き口が無くなってしまったのである。
今はかろうじて、観光の分野が働く場所だ。
人を遊覧で乗せたり、芸をショーで披露しているに過ぎない。
それで、やっと象さんたちは糊口をしのいでいる。
だから、七歳でも仕事が事足りたのだろう。
それにしても、象使いさん自身もやり切れないかも知れない。
先祖代々に受け継いで来た仕事に、胸を張る活躍の場が無い。
帰りのバスの中で、ふとそんなわびしいことを考えてしまったのである。
と言うわけで、象さんの引退は約50歳の頃だそうです。
その頃には、象使いの彼女も同じく引退しているでしょう。
そして、この主従に、この先の生活に幸多からんことを心の中で祈った、貧乏社長なのでした。
(この巻き、終り)
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