昨年末、世話になったジェトロバンコクのコンサルタントさんにご挨拶してきました。
お話によれば、日本の中小企業は、地元で生産を止めてタイに生産拠点を丸ごと引っ越してくるようになったと言っていました。
東京の大田区なんか、行政が手助けするような時代です。
そう言えば、昨年、株主の頼みで神奈川県の中小企業さんの工場訪問を受けて、現地進出の説明をしたこともありました。
日本では、設計開発や品質管理の部門を一部残し、製造はタイへ一切合財、現地進出するパターンが増えているそうです。
しかも、経営者の二世は、利益も少なく休みの取れない下請け的な3K(きつい・きたない・きけん)の事業を敬遠して、代を引き継がない事例が増えたとお聞きしました。
そうなんだ。
自分が13年前、96年にISOの文書を書くためにタイに来た時は、こんなことは想像もしませんでした。
あの頃は、未だ、製造する品物のグレードとか、市場のニーズに応じて作り分けをしていました。
ものづくりの拠点は、日本に厳然として存在していたのです。
ところが、現在はそれすらも無くなりつつあるようです。
本当に、驚いているし、寂しい気もしました。
実際、自分に係わり合いのある協力会社もこのような現実を経験して来ています。
金属ダイキャストと樹脂成型射出で部品をお願いする協力会社は、日本の生産部門をたたんでしまいました。
しかも、そうなってから十年近くかそれ以上の年月が経過していると聞いています。
つまり、日本の製造業の空洞化はピッチが早くなりました。
こうなると、日本の経営者は、直接投資の仕向け先として、改めて熱いラブコールを、タイへ送っているのかもしれません。
そんな話の中で、一頃中国がものすごいブームだった時代を思い返しました。
90年代、自分は中国の営業担当でした。
ご多分に漏れず、勤め先では投資先の工場を立ち上げます。
まだ、現地調達が困難だった時代で、色々な資機材を輸出した思い出があります。
工作機械、冶具、洗浄油、果てはウエス(汚れ拭きの布)やキングジムファイルに至るまでです。
通関で極端に関税を掛けられないように、輸出書類を工夫して作成したものでした。
でも、中国自らもタイへ工場進出するような時代がとうとうやってきました。
最近は、日本でも中国メーカーの家電製品を数多く見かけます。
中でも、ハイアール社は一番有名です。
実は、つい最近、タイ工場の生産能力増強を実施すると公に発表しました。
2012年までに、年産百万台のエアコン生産能力を持てるようにすると言うのです。
同社は、かってのサンヨー工場を買収してタイで生産に着手しました。
地の利を活かして、中東・アフリカ向けの輸出拠点にすると説明しています。
これは、中国でも空洞化が既に始まったのではないでしょうか。
そして、このような生産拠点の引き受け先をタイが担っています。
なかなかに、タイは成長したのだと思いました。
そんな分けで、自分の親会社も極度な空洞化を心配するようになりました。
製品で製造拠点の棲み分けをするのか、日本の工場は国内向けに専念して、価格競争の厳しい輸出製品を海外拠点に任せるのか、目をそらすわけには行かなくなったのです。そんな風に感じ取った貧乏社長なのでした。
(この巻き、終り)
※本記事は、”短足おじさんのあれこれ”ブログでコメントした内容を書き改めたものです。
4 件のコメント:
私がタイに着任したのが1998年、その頃は通貨危機直後で町は荒れ果て酷い状態でした。今は夢のような状態です、タイはそれだけシッカリしたものを持っていると思います。
今日本の工場をたたんで生産拠点をタイに移すところが増えている、凄い事ですが心配も有ります。
昔アメリカもブルーカラー仕事は海外に移すといって実際やってきましたが結果は失敗でした。国内の生産拠点を無くしてしまうと技術は進歩せず、人材も育たないからです。
これからの日系企業の課題はそこにあるのではないでしょうか。
昨日、TVで若者が3K職場から逃げては「職が無い」と言い出すので「外国人を使わざるおえない」クリーニング屋さんが出ていました。なんだか、日本人としての根本が崩れてきていると思いました。
なんだか勤勉な日本人という言葉の上にあぐらをかいていると足元をすくわれるのではないかという気がします。
短足おじさんへ、
国内の生産拠点を移してしまうと技術は進歩しない。
おっしゃるとおりです。
最低限、開発・品質管理部門は国内に残しておくとしても、生産工場での作り込みによるデザインの深化、コスト削減の連携は、海外に出てしまうと難しくなります。
いっそ、海外出張は国内扱い並の旅費規程で経費を抑え、人材をどんどん派遣して、国境を越えた交流を行うしか、手は無いのです。
そう言う意味では、米の食文化、仏教の文化、王様による近似した統治体制など、カルチャーのインフラが似たような国は、進出しやすいと思います。
楽仙堂さんへ、
若者が3K職場を敬遠してしまうのは、已むを得ないでしょう。
五木寛之の四十年以上の前の小説だったと思いますが、スエーデンへヒッピーのように旅行した日本人が、3K職場で働く話を覚えています。
そして現在、日本もいつしか先進国に駆け上り、そのような同じ状況に至っているのでしょう。
そのような現実を踏まえ、日本人の勤勉に対する新しい価値観が必要なのかもしれないと思いました。
でも、職業に貴賎は無く、働く人は皆平等に尊いと言う意識だけは、自分も持ち続けたいと思います。
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