おふくろが亡くなってから、既に三十年以上が経ってしまった。
祖母も兄弟の伯父さんも既に鬼籍に入って、今や、残された親戚も義理のおばちゃんや従兄弟だけになった。自分も半世紀を生きてしまったのだと感慨深いものがある。それで、北海道に住む自分の血筋が薄れていくのは、やるせなく寂しいと感じるものの、時の移り変わりに命は逆らえず、致し方ないのかもしれない。
おふくろは、十勝地方の芽室町に生まれた。帯広の隣にある町で、何とかJRの特急が停まってくれる。それでも、人口は二万人あるかどうかの小さな町だ。今では、親戚も仕事の関係などで、帯広に移ってしまったのだが、自分なりには懐かしい記憶がこの町には残っている。自分が子供の頃、おふくろは里帰り気分で、よくこの町へ連れて行ってくれたからだろう。
そんな十勝地方が、自分にとっては心の故郷なのかもしれない。毎年、上さんを伴って墓参りのついでに、ふらふらっとつい立ち寄ってしまう。親戚も、突然やって来た我々を、嫌がらずに遠路はるばる来たからと言ってもてなしてくれる。
そんな、暖かい気持ちの十勝地方が好きなのである。
一人の伯父さんは、帯広でも国立の畜産大学とか甲子園に出た農業高校に近い川西地区に住んでいた。そう言えば、この辺りには、田中義剛と言うエセ道産子芸能人が、胡散臭く運営する”花畑牧場”とか言う観光牧場がある。ただ、地元の人は全く関心が無い。他所者がやってる農家モドキの商売ごっこぐらいにしか見ていない雰囲気もある。色々話を聞くと、地元の人の農業ノウハウを盗んでは、それを商売に仕立て上げて、利益を横取りするとか何とか、余りよい話が伝わってこない。
それで、インターネットなんかを見ると「花畑商法」とか揶揄している人もいるようだ。
自分も、千歳空港の土産物店で花畑牧場に立ち寄ったりしたこともあるし、昨年だったか、里帰りした時にホエー豚を使った豚ドンの出店も見かけた。後で、ネットで調べたら、東京・青山支店では豚丼一杯を1450円のお品書きにしているそうだ。個人的には、すごいふんだくり商売だなーと思ってしまう。
なぜなら、庶民のどんぶりなのだ。帯広市内の食堂なら、どんなに有名でも八百円くらいで食べられる。
※「丼百科」より転載させていただきました。
豚丼には自分自身にも思い出がある。四十年前、おやじが単身赴任でワイン城で有名な池田町に住んでいた時、夏休みを利用して遊びに行ってみた。その寮には、親切な賄いのおばさんが一人いて、その時出してくれた豚丼が、一番においしくて印象に残ってしまった。今だにその味を思い出すことがある。
それで、豚丼を言葉で表現するのは難しい。残飯食って泥だらけに走り回って、健康的に育てられたトンちゃんの肉に、甘辛いとろみのあるたれをからませて、盛り付けて食べるとだけ、言っておこう。花畑のホエーだかハラホロヒレハレーだか知らないけれど、そんな薀蓄てんこ盛りの肉にからませて食べた挙句、大枚毟り取られるのも、何だか味もふところも、さもしいような気がするのである。
つまり、ご当地メニューの味を素朴に暖かく知ってしまった者としては、合点がいかないのだ。
そんなわけで、あの頃、賄いのおばさんが作ってくれた豚丼は、見た目が「食堂おふくろ」に近いと思っているので、タイから帰参したら、ぜひに帯広へ食べに行こうと思った貧乏社長なのでした。
(この巻き、終り)
2 件のコメント:
北海道出身の方にお聞きしたのですが、北海道ではすき焼きに豚肉を使うのですか? 北海道の方は、牛肉をあまり食べないとおっしゃっておられました。
豚丼、おいしそうですね。私にも食べられそうです。大阪では見たことがない丼ですね。最近、牛丼チェーンが豚丼を提供していますが、どんなのかまだリサーチしておりません。
花畑牧場、異常なほどまでの人気ですね。百貨店で行われる北海道展がこれまで以上にすごい盛り上がりだそう。販促をしておられる方が、花畑牧場の商品をバイヤーが奪い合いしているとおっしゃっておられました。そんなにいい商品なのかなあ~って疑問です。
とよこさんへ、
花畑牧場が豚丼に使うホエー豚は、肉質的に不向きでして、欧風料理の素材として適当ではないかと思うのです。
最初に、ホエー豚を始めた農家の取材をテレビで見たことがありますが、たしかハムの加工に使われていたと思います。それで、ちょっと違和感を感じたので、記事にしてみました。
北海道では、牛肉の代わりに豚肉を使うのは普通ですね。新潟県もそうだと聞いています。おそらく、新潟から移り住んできた開拓農家の人も多いので、習慣が引き継がれた可能性もありますし、酪農が主な産業の北海道では、大切な牛を屠殺して食べることを忌み慎んだのだろうと思います。
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